1. 欲求階層説とは
アメリカの心理学者 アブラハム・マズロー(Abraham Maslow) が1943年に提唱した理論で、
人間の欲求はピラミッド型の階層をなし、下位の欲求がある程度満たされると次の段階を求める とされています。
- 下位の欲求:生きるために欠かせない基本的な欲求(食事・睡眠など)
- 上位の欲求:精神的な満足や自己成長に関わる欲求(承認・自己実現など)
マズローは「人間は単に不足を埋めるだけでなく、成長し続けようとする存在である」と考え、
人間理解を「生きがい」や「成長」の視点にまで広げました。
◆ 基本の5段階
- 生理的欲求:食べたい・眠りたいなど、生存に直結する欲求
- 安全の欲求:安心して暮らしたい、健康や経済の安定を求める欲求
- 所属と愛の欲求:家族や仲間とつながりたい欲求
- 承認の欲求:他者に認められたい、尊重されたい欲求
- 自己実現の欲求:自分の可能性を最大限に発揮したい欲求
(後年には「自己超越の欲求」=他者や社会に貢献したい、という第6段階も加えられました)
👉 訪問看護・介護では、利用者が「今どの階層に重きを置いているか」を意識することで、ケアの優先順位が見えやすくなります。
2. 各欲求と現場での応用
(1) 生理的欲求(生きるための基本)
- 内容:食事・排泄・睡眠・清潔など
- 現場応用:食事介助、服薬管理、排泄支援、清拭・入浴介助、口腔ケア
- ポイント:ここが満たされなければ他の欲求に進めない → ケアの“土台”
(2) 安全の欲求(安心して暮らしたい)
- 内容:病気や事故の不安がなく、安心して生活できること
- 現場応用:バイタルチェック、転倒予防、緊急時対応、住宅環境整備
- ポイント:安全の確保が「安心感」と「生活の安定」を生み出す
(3) 所属と愛の欲求(人とのつながり)
- 内容:家族や友人、地域社会との交流
- 現場応用:会話・傾聴、家族との橋渡し、地域やデイサービスへの参加支援
- ポイント:孤独感を軽減し、「自分は一人じゃない」という実感を持ってもらう
(4) 承認の欲求(認められたい)
- 内容:尊敬・賞賛、役割や価値の実感
- 現場応用:本人の選択を尊重する、できることを任せる、褒める・励ます
- ポイント:「自分はまだ役に立てる」という感覚が意欲と回復力につながる
(5) 自己実現の欲求(自分らしく生きたい)
- 内容:自分の可能性を最大限に発揮し、なりたい自分になる
- 現場応用:在宅療養の希望を尊重、趣味の継続支援、人生の希望を形にするケア
- ポイント:自己実現は人によって形が異なる → 「その人が望む生活像」に寄り添うことが重要
3. 研修での学びの視点
- 身体だけでなく心の欲求もケアの対象
- 「今どの欲求が満たされていないか」を見極めることがケアの質を高める
- 欲求は流動的で人によって順序が異なる → 画一的ではなく「その人らしさ」を尊重する
4. まとめ
訪問看護・介護の役割は、単なる生活支援にとどまらず、
利用者が一段ずつ欲求を満たし、“その人らしい生き方”を支えること です。