「もう年だから、何もできない」
「迷惑ばかりかけて、生きててもしょうがない」
訪問介護や訪問看護の現場で、こうした言葉を耳にすることは少なくありません。
それは一見、諦めや自己否定の言葉のように聞こえますが、実はその裏には長年かけて心に染み込んだ“誰かの言葉”が潜んでいることがあります。
言葉は、人を縛る
「○○さんは昔から我慢強い人だから」
「あなたは弱音を吐くタイプじゃないでしょう」
一見褒めているように見える言葉が、役割や性格を固定してしまい、素直な感情表現を許さなくなることもあります。
「できない」と言い続ける人は、もしかすると過去に「どうせあなたには無理」と言われ続けた経験があるのかもしれません。
そしてその言葉をいつの間にか自分の中に取り込んでしまい、自分自身を縛る“内なる声”にしてしまっているのです。
ラベリング効果とは?
心理学でいう「ラベリング効果」とは、人に対して与えたレッテル(=ラベル)が、その人の行動や周囲の認知・関わり方に影響を与える現象のことです。
たとえば、「手がかかる人」とラベルを貼られた利用者は、少しの失敗や訴えが“やっぱり手がかかる”と受け止められやすくなります。
周囲の目がそのようになると、本人も無意識に「自分はそういう人間だ」と振る舞いを強めてしまう――まさに、言葉が人を縛る現象です。
言葉の選び方でケアが変わる
ラベリング効果は、悪い方向だけに働くわけではありません。
訪問支援は1対1の深い関わりが生まれる場です。
何気ない日常の言葉こそが、その人の心に響く“支援”になります。
- 「今日、顔色いいですね」
- 「ゆっくりで大丈夫です、一緒にやりましょう」
- 「前より声がはっきりしてきましたね」
こうした肯定的な言葉=ポジティブラベルを繰り返すことで、本人は「自分はそういう存在なんだ」と少しずつ認識を変え、自信を取り戻すきっかけになっていきます。
支援者としての言葉の責任
私たちは日々、ケア技術や知識を研鑽しています。
しかし、それと同じくらい大切なのが、言葉の使い方です。
- 本人が自分に貼っているラベルをほどく言葉をかける
- 支援者同士の申し送りや記録で、不要なレッテルを強化しない
- 肯定的なラベルで、新たな視点を育てる
これらはすべて、「言葉で関係性を築く専門職」としての、重要な仕事です。
おわりに
言葉は、羽にも鎖にもなります。
自分自身を責めることも、誰かを無意識に型にはめてしまうこともあります。
だからこそ私たち訪問介護、訪問看護の職員は、「どんな言葉をかけるか」「どんな言葉を受け取っているか」に、日々敏感でありたいと思います。
“縛る言葉”ではなく、“解きほぐす言葉”を。
その意識が利用者の変化を導き、支援の質を変えていく力になるはずです。