1. 防衛機制とは?
人は、病気・老い・人間関係の悩みなど大きなストレスに直面すると、不安やつらさをそのまま受け止めきれないことがあります。
そんなとき、心を守るために無意識に働く仕組みが「防衛機制(ぼうえいきせい)」です。
これは決して「弱さ」や「病気のせい」ではなく、誰もが日常生活で自然に使っているものです。
ただし強く出すぎると、人間関係や治療に影響することもあります。
ご家族が理解していると、本人の行動の裏にある気持ちを見抜きやすくなり、サポートの力になります。
2. 代表的な7つの防衛機制とその具体例
① 抑圧(よくあつ)
内容:つらい出来事や受け入れにくい欲求を無意識に心の奥に押し込める。
例:「入院前のことはあまり覚えていない」と語る → 実は思い出すと不安になるため、無意識に忘れようとしている。
家族のヒント:無理に思い出させたりせず、「今ここで安心できる」環境をつくってあげる。
② 合理化(ごうりか)
内容:自分に都合のいい理由をつけて行動や失敗を正当化する。
例:「薬を飲まなかったのは副作用が心配だから」「リハビリを休んだのは天気が悪かったから」
家族のヒント:「やらない理由」を責めず、「できたときの安心感や効果」を一緒に確認していく。
③ 投影(とうえい)
内容:自分の中の不安や否定的な気持ちを、他人がそう思っているように感じてしまう。
例:「スタッフが私を嫌っている」と言うが、実際は本人が人間関係に不安を感じている。
家族のヒント:否定せず、「そう感じるくらい不安なんだね」と気持ちを受け止める。
④ 反動形成(はんどうけいせい)
内容:本当の気持ちと正反対の態度をとる。
例:本当は寂しいのに「一人の方が気楽だ」と言い張る。好きな人に冷たくする。
家族のヒント:「本当は寂しいのでは?」と追及せず、安心できる関わりで「言葉の裏にある気持ち」を想像してあげる。
⑤ 置き換え(おきかえ)
内容:本来の相手に出せない感情を、安全な相手にぶつける。
例:外で嫌なことがあり、家で家族に八つ当たりする。
家族のヒント:「なぜ自分に?」と思うより、「本当は他で我慢してきたのかも」と理解する。
⑥ 同一化(どういつか)
内容:憧れの人や強い存在と自分を重ね合わせて安心する。
例:「有名な人も同じ病気を乗り越えたから、自分も大丈夫」
家族のヒント:その対象を尊重し、「その方のどんなところに勇気をもらっているの?」と会話を広げる。
⑦ 昇華(しょうか)
内容:抑えきれない欲求や不安を、社会的に価値ある形で表現する。
例:不安や怒りを運動・絵・音楽・日記などに変えて発散する。
家族のヒント:「そういう方法で気持ちを表せているのはすごいね」と前向きに評価し、続けられるように支える。
3. ご家族へのメッセージ
- 防衛機制は「心の弱さ」ではなく「心を守る自然な盾」です。
- 怒りや否定の言葉の裏には、不安や恐れが隠れていることが多いです。
- 大切なのは「表に出た言葉や態度」だけで判断せず、その奥にある気持ちに思いを寄せることです。
4. まとめ
防衛機制は、誰もが持つ心の仕組みであり、大切な人が「自分を守ろうとしているサイン」です。
ご家族がそれを理解し、否定せずに受け止めることで、本人が安心できる場をつくりやすくなります。
「見える言葉や態度の奥には、“心を守る盾”があります。
その盾を理解することは、ご家族ができるもっとも優しい支えのひとつです。」